バナナトラップで捕えられ、帰省先から連れ帰られたヒラタクワガタ。
ところが、籠に入れてからというもの、ほとんどおがくずに潜りっぱなしの日々。
玄関に置いているので、そんなに暑くはない環境ですが、ほとんど動きがなく、餌のゼリーを食べているのも見たことありません。
「このままでは死んでしまうな・・・」
小学生の頃、旅先の森で捕まえたクワガタ、カブトムシのことを思い出しました。
旅行先で、早朝から森に出かけ、クワガタとカブトムシを10匹近く獲ったのです。
有頂天になった私は、一旦車の中にそれらを置き、再び森へと出かけて行きました。
二度目の出陣から、車に戻ってきた私の目に飛び込んだのは、車内の高温で全滅しかけの虫たち。
数少ない生き残りを家に持ち帰ったのだけど、活発な動きは戻ることなく、土に帰すことになってしまいました。
今回のクワガタは、その時の状態に酷似している。
「虫の命は短い・・・」と、カマキリ先生も繰り返し言われています。
ヒラタさんの元気のなさ、昆虫の命の短さを息子に伝えて、近くの里山公園へリリースすることになりました。
公園の駐車場へ到着すると、それまでジーっとしていたヒラタさんが、急に活発に動き始めます。
不思議です。故郷に似た空気を感じ取ったのでしょうか
虫かごを携えて、公園の奥へと進みます。
ワンワンとやぶ蚊が音を立てる中、直ぐに人間に見つからないように、そのまた奥へと脚を進める。
やがて、どっしりとしたボディの木々が現れ、その頭上から細く陽光が差し込んでくる、何ともうってつけの場所に辿り着きました。
「ここなら、良いだろう」
ことさら太い幹を選んで、クワガタを放します。

最初は驚いたようにじっとしていましたが、すぐに根元に向かって動き出したヒラタさん。
さすが、身を隠すための本能なんでしょう。
ポトリと落ちたコクワは、足元の落ち葉に身を隠し、あっという間に見えなくなりました。
「育った森とは違うけど、元気でな・・・」
感傷的になる私をよそに、クロアゲハを追い回す息子たち。
すでに、クワガタは頭になさそうです。
今は、「パパ、パパ!」とうるさいくらいに言ってくれるけど、そのうち見向きもしなくなる日が来るのかな。
炎天下の中、蝶を追う姿を見ながら、余計な事を思ってしまいました。